森の力　　　　宮脇昭　　　　　　講談社　　

陸前高田にあった7万本といわれるクロマツの防潮林は、あの東日本大震災の津波によって1本を除いて全て倒れ流されてしまった。残った1本も「奇蹟の一本松」といわれたものの、結局枯れてしまい1億5千万円をかけてそのレプリカが立てられている。

一方、同じ津波に襲われながらも全国各地の多くの鎮守の森や、昔から集落を囲んで木々は、津波を食い止め、倒れることもなくしっかりと立ち続けていたばかりではなく、瓦礫や自動車などの堰となてこの流失を食い止め、多くの人命や家屋を守った。

スギ、マツ、ヒノキといった針葉樹の人工林のもろさに比べ、タブノキなどのその土地が潜在的に持つ自然林の強さをまざまざと見せ付けた好例であった。

今年85歳になる著者は、日本における植物生態学の草分け的存在だが、半世紀以上にわったって日本各地の自然植生の現場調査を行い、その結果に基づく自然植生の回復運動を続けてきた。今までに行なった植林は既に4000万本にも達し、その活動は日本国内に留まらず世界的な規模に及んでいる。

本書はそんな著者がその半生を振り返り、我々が、いかに自然と折り合いながら植生というかけがえのない地球財産を維持していくべきなのかを情熱的に語った一冊であり、中々感動的である。

植物はこの地球上に現れて既に2億年近く生延びてきている。それに比べ、我々人類はわずか5百万年に過ぎない。植物の強靭さにあやからずして我々の命運はさほど長くはないだろうと考えるきっかけになるであろう著者の活動は、皆がもっとよく知っておくべきだと思う。