聞く力　　　　　　阿川佐和子　　　　　　　　文芸春秋　　　

「週刊文春」誌上で、20年間続く対談連載でインタビュアー役を続けてきた著者による失敗談、体験談を纏めたものであり、タイトルからイメージする「聞き上手」のコツを纏めた一冊というものではない。

ただ、この中で語られていることは、通算20年、延べ1000人近い有名人たちとの対談の中で著者が感じた対話によるコミュニケーションの秘訣といったヒントがかなりあるように思われる。

対談前に完璧すぎるほどの資料読み込み、あるいは質問の段取り決めといったものが、決して内容深いインタビューになるとは限らないこと、かといって余りの準備不足、知識不足も勿論よい対談にならないこと、あるいは、著者自身も予想しないところから、ディープなコミニュケーションに成功した例もあることなどの、面白い部分は豊富にある。第一回のインタビューで城山三郎と対談した際、聞き役であるはずの著者が、城山三郎の聞き上手に乗せられて、しゃべりっぱなしになってしまったという体験談からは、人はだれでも、話を聞いてもらいたがるものの、中々よい「聞き役」にはなれないということなどがわかり、ある意味で我が体験に照らし合わせても、大いに参考になる。

これといったインタビューの王道、コミニュケーションの秘術が、纏まっているという訳ではないが、著者の謙虚で、しかも正直な姿勢からかもし出される、対談体験談は、面白さという点では申し分なく、本書がベストセラーとなった理由もおおいに納得できる。