島研ノート、心の鍛え方　　　　　島朗　　　　　講談社　　　　

将棋は未だに正確には駒の動かし方も知らないのだが、囲碁同様にこの世界には以前から興味をもっているのは、「負けるのが嫌だから」という無類の撒けず嫌いが、一対一の勝負なのだから勝つこともあれば、負けることもあるという碁将棋の世界からの「逃避」という形になったに過ぎない。祖父や父をはじめ諸先輩や友人たちの勧めにも物おじばかりして、結局この歳になるまで逃げ続けていた碁将棋の世界だが、その世界に生きるプロ達のみならず、それを趣味としている人達に対する憧憬は、以前から持ち続けており、今も、「碁でも将棋でもやっておけばよかったろうに」という後悔の念は禁じえない。

そんな憧れもあって昔から、名人戦の解説番組の類、碁将棋のテレビ戦などを時々はみているし、棋士やライターたちが書いたいわゆる「碁将棋物」も随分とたくさんよんできた。

本書もそんな一冊だ。著者は初代竜王にも輝いた現役棋士で、通称「島研」といわれる若手棋士たちの研究会の主宰者でもある。

島研には、若き日の羽生善治、森内俊之、佐藤康光という三人の名棋士たちも所属していたことがあったというが、著者は早くからこの三人が将来、日本の将棋界を背負っていくであろうことを見抜き、後輩であるにも係わらず彼等をレスペクトもしているという。

そんな著者の経験から書かれた本書は、棋譜の一枚もあるわけではなく、勝負に生きるという中で不可欠な「心の強さ」を著者自身、そしてこの三人の名人たちや、他の先輩棋士達がどうやって鍛えてきたかを、エッセー風に纏めたもので、将棋とは関係のない一般人、ビジネスマン、スポーツ選手などにも、おおいに参考になるのではなかと思う。

又、幾ら新戦法を考えても、直ぐにその対応策が生み出されてしまう現在のコンピューターを駆使した研究の現実や、それを更に乗り越えて、又、新たな新手、戦法が次々と生み出される将棋の深さと人間の知能の驚異、といった部分も大いに読み応えがある。