ヤバい経営学　 　　F･ヴァームーレン　     　　東洋経済新報社　　　

経営の神様といわれた松下幸之助流の経営がよいのか、いやいやハーバートビジネススクール流の会社経営がはるかに優れているといえるのか―――世の中に「経営学」と称する数多くの指南書が溢れているし、数多の経営者がそういった経営学を手本にあるいは参考にしつつ、独自の企業経営に勤しんでいるが、いまだに「これこそが企業経営におけるベストの方法だ」といえるものは見つかってはいない。

実際に例えば30年前にフォーチュン500にリストアップされていた優良企業の中で現在も当時のままの経営形態で生き残っている企業は3割以下である。経営危機に直面し既に消滅してしまった企業も多く、経営者の中には刑務所暮らしをしている者までいる。当時褒めそやされた彼等の「経営」とは一体何だったのだろうか？

経営という営みが、実は無限の変数によって動く経済という「混沌」の中を、まさに目の見えないままに、手探りで走っているような物に過ぎないのではないか？という疑問は、最近もシャープやパナソニックなどの日本を代表する企業の見るも無残な凋落振りから、我々も体験しているところではあるが、本書ではそういった「経営」の中で「大真面目に行なわれている愚行」の数々を指摘するまさに経営学という営みに対する「王様は裸だ！」という警告である。

曰く、「ほとんどの買収は失敗に終わる！」｢アナリストは占星術師と同じ｣「ISO9000は革新的なイノベーションを阻害する」「人員削減は経営のプラスにならない」等々、我々が盲目的に信じ込んでいた「経営の鉄則」なるものがいかに的外れどころか間違っているかを指摘する本書は、まさに「目からウロコ」の一冊である。

いずれの指摘も、著者自身のフィールド調査の結果、あるいは豊富な資料から導かれたものであり、憶測などではなく、事実に基づいて指摘されているだけに説得力も抜群だ。

今、稲盛氏や孫正義氏の経営が褒めそやされ、そうなると今度は彼等のやることが全て「正しい経営」となってしまうのは、偶々彼等のやっていることが上手く行ったからであって、「原因と結果の取り違え」があるのではないか？と疑ってみる必要がある−−−のかもしれない。（もし、彼等が何かで躓けば、今度は彼等の経営が間違っていたから躓いたのだ！といわれるようになる可能性が高い）

内容豊富で面白い一冊だが、苦言を呈すればこの出版社が出しているという「ヤバいxx」なるシリーズの第4弾として出版されたということで、どうにも品のない「ヤバい−−」等というタイトルが使われていることだ。こんな変な邦題をつけられた原著者が気の毒でならない。(マジメで革新的な一冊なのに！)