世界文明一万年の歴史　　　　マイケル・クック　　　　　柏書房　　　

「歴史にIfは禁物」といわれるけれど、著者が本書の執筆に当たって挑戦したのは、このタブーを歴史の根本に亘って考えてみよう！ということだった。

即ち、「今まで人類がもってきた歴史は必然だったのだろうか、ひょっとしたら、全く異なった歴史が生じていた可能性があったのではないか？」という疑問だ。

基本的には「人類文明史の過去1万年」に亘る考察ではあるが、そもそも地質時代の大陸分裂だとか、氷河期と間氷期のパターンといったものが、ほんの少し変わっていただけで、地球上の生物史は今とは全く異なったものになっていた可能性は高いし、そういった自然条件と、人類進化が偶々同期したからこそ、現在に至る人類史、文明史があった訳で、ほんの少しの違い、（例えば、約１万年前にベーリング地峡によってユーラシア大陸と北アメリカ大陸が繋がっていなかったら−−−人間のみならず他の動植物の歴史は大きく変わっていただろう）によって歴史は大きく異なったものになっていただろう。

そんなスケールの大きな観点から、過去一万年の各大陸における文明史がいかなる偶然の結果として形作られたのかを考察したのが本書だ。

著者の専門はオリエント学、およびイスラーム思想だそうだが、そういった自らのフィールドに拘らず（又、限定されない）実に広い視点からの世界規模、及び超長期の時系列的な文明史考察は、斬新かつ大胆なものであり大いに満足できる。

ジャレット・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」に触発されて書かれた一冊ということだが、それをさらにスケールで上回っていると思う。（多分に断定調なところも多いが、「歴史」を見通すということは、当然そうならざるを得ないし、それでなければならないと思う）