ザ・ナイン　　　ジェフリー・トゥービン   　　河出書房新社　　　　

世界最高の権力者であるとさえ言われているアメリカの大統領だが、それでも彼の権力は最長でも8年、実質的には6年乃至7年程度の間でしかないが、アメリカの連邦最高裁判所の判事9名は、一度就任してしまえばその権限は彼もしくは彼女が自ら辞めるといわない限り、終生握り続けることができるし、彼等9人の判断が大統領以上にアメリカの社会を決定的に形作っているといえる。

本書は、その9人の連邦最高裁判事一人一人が、重要な裁判においてどのような判断を下してきたか、そして彼等一人一人が、どういった思想をもっていて、どんな性格や人柄なのかといったジャーナリスティックな部分を含め、詳細に描いた労作であり、

アメリカのこの約半世紀の現代史を知る上で実に貴重な一冊といえる。

この約30年以上に亘ってアメリカではキリスト教右派の台頭による司法、政治の保守化が進んでいるといわれるが、実は多くの重要判決においてはこの9人の判事達の判断が5対4という微妙なバランスを取り続けてきたことで保守、リベラルのいずれの側にも極端に振れることがなくきているという。

中絶やアファーマティブアクション、ブッシュ対ゴアなどの重大な判決において、この9人がどのような判断を下してきたのか、彼等9人の任命に歴代大統領、そして保守とリベラルの両派がどのように影響してきたのか等々、まさに生きたアメリカ近現代史のドラマを描いた一冊といえる。