明治国家をつくった人びと　　　　瀧井一博　　　　講談社　　　

ペリー来航が1853年、明治元年は1868年である。ペリー以前にもその気運にあったとは言えわずか15年の間に260年続いた江戸幕藩体制、いや700年続いた武家政治が崩壊したのだから大変な激変である。

しかし、それ以上に驚かされるのは維新からわずか22年後にはアジア初の近代憲法といわれる明治憲法が成立、近代国家としての新しい日本の国家体制が成立したことである。

何事でも壊すのにかかる時間と同程度の期間で全く新しい物を作ってしまうというのは早々簡単なことではあるまい。

しかも、それが維新の英傑と言われた破壊する側の主役の多くが作る側の主役になって行なったというのだから世界史的にそうめったにあることではないのではないだろうか。

本書は、この時期、幕末から明治にかけて、人々が西洋文明とどのように出会い、それをどのように受容し、新国家像を作り上げていったのかを詳細に語っている新しい明治観を与えてくれる一冊といってよいだろう。

伊藤博文、山形有朋といった著名人のみならず、万延元年に遣米使節団として初めて太平洋を渡ったメンバーの一人でもあった玉虫左太夫などの比較的知られていない人物、あるいは明治天皇などの当時の考え方などにも著者の研究は及んでおり、いままで当然の成り行きで成立したかのように思われがちであった明治国家というものが、この時期の人びとの猛烈な勉強と努力によって作られたのだということを実感させてくれる。

この時期に成立した明治憲法が以後、約70年間に亘って日本という国の近代国家としての道筋を決めたこと、そして戦後作られた（アメリカに押し付けられたともいわれる）現憲法が、今や70年を経てその様々な矛盾をろていしていながら、その改正や改定の話が長くいわれながらも一向に動く気配もないことなど様々に考えさせられた。

明治人のバイタリティーの凄さ、そして我々自身の覇気の無さのようなものが、より鮮明に感じられてならないのだが。