学力幻想　　　　　　　小玉重夫　　　　　　　筑摩書房　

ゆとり教育の功罪、といった問題ばかりではない、日本の教育のあらゆる側面に対する社会的な批判、不満は戦後一貫して常態的なものになっている。

保守勢力と、日教組などに代表される革新（？）勢力による不毛ともいえる教育の政治論争化、「デモ、シカ先生」などに代表される教育現場（教師達）の質の低下、あるいはゆとり教育の名の下で進んだ国際的な「学力テスト」成績の下落等々の問題だけでも、「いずれにせよ、最早日本の教育の質の悪さはもう手の施しようがない」とすら思わせるものではあるが、「日本の教育」に対する社会の鬱積した不満、絶望に近い感情は、そういった教育現場の改革を担うべき「日本の教育学」あるいは教育政策立案者たちの質の低さとそれにともなう堂々巡りともいえる不毛な論争の為の論争によるものでもある。

本書の著者などは、つくづくその「ダメな教育学者」の典型例だと思う。まず、著者には教育を語るだけの現場感覚、現場知識や経験が徹底的に不足しているように思われ、本書で語られる主張がまるで畳の上で水泳を教えているかのように、現実感を欠いた空論に終わっている。

正直言って本書で著者が何を主張したいのか、さっぱり理解できないのは、決して著者が極めて高尚な教育理論を語っているのに、その教育論をこちらが理解する能力がないからだとは思えない。要するに、酷い悪文、著者自身（あるいは教育学者の数人）だけにしか通じないような業界符丁っぽい専門用語（？）の乱発は、読者の大半に対して迷惑でしかない。

相当の難渋をしながら最後まで読んでみても、さて著者が結論として日本の教育をどうしたいと主張しているのかさっぱりわからないし、そもそも教育の現状を肯定しているのか、批判しているかすら定かではないのだから、これほど酷い教育論の新書もめずらしい。

だから「日本の教育はダメなのだ！」という声が益々強くなりそうな1冊だった。