機械との競争　　　E・ブリニョルフソン/A・マカフィー　　　　　　日経BP　　

19世紀はじめイギリスで起こったラッダイト運動とは、産業革命にともなう機械導入により、失業のおそれを感じた手工業者・労働者が起こした機械破壊運動だ。

ムーアの法則に基づく指数関数的なコンピューターハードウエァ及びそれを使った処理能力の伸びは、あらゆる場面で人間の能力を遥かに上回りつつあり、人々の雇用を奪いつつある。雇用を失った中級、下級労働者層にとってはネオラッダイト運動をも辞さず、といったムードさえ起きつつある。

産業革命初期においてもあるいは現代の技術革新期においても、機械能力の伸びは、トータルでは社会生産性の向上をもたらしており、そのような生産性向上に伴い新しい産業、雇用が生まれていることは事実で、経済の教科書によれば、そういった生産性の向上は、旧産業で職を失った人々に、あらたな雇用機会を提供することによって雇用問題は発生しない―――といっているが果たしてそうだろうか。

新しく生まれた雇用は、より高度なスキルを必要とするから、確かに超熟練労働者、能力が極めて優れた人々にはより高額な報酬をもたらすが、中級あるいは非熟練の下級労働者の雇用機会は、機械に奪われてしまうから、1％のエリートといわれる人々へのより一層の富の集中を呼び、所得格差は益々広がる一方、といった傾向は押し留めようがないといった様々な弊害を生んでいることもまた事実だ。

本書は、前半部分で、機械の進歩がもたらす脅威の現状を伝え、この脅威がもたらすであろう未来シナリオに対して我々はどのように対処していくべきかの提言を行なっている。

チェスは勿論、最近は将棋でさえコンピューターが人間を負かすところまできている。自動車の自動運転も既に視野にはいってきているといわれ、翻訳機の機能も飛躍的に進歩している。

近い将来、車を運転する人間や、通訳や翻訳家といわれる職業はいらなくなるかもしれない。10年前に「そんなことになる訳がない」と思われていたことが、あっという間に現実のものとなろうとしている時、人類は、そして我々個人はどうしなければいけないのか----後半部分で著者は具体的な対処作を提案している−−−。

しかし、前半部分の脅威論の迫真度に比べると後半の「べき論｣部分には、もう一つ現実感、迫真度が感じられないのは、社会のみならず著者自身も、この人類がはじめて経験する機械能力の爆発的発展に対して、呆然としてしまっているからではないかとも思う。

やはり、ラッダイト運動しかないのだろうか？