イースタリーのエレジー　　　ペティナ・ガッパ　　　新潮社　

独立前、ローデシアは南アフリカとともにアフリカに残された白人至上主義の国であった。

一握りの白人が国の富を全部握り、黒人たちは徹底的な人種差別の下で悲惨な生活を強いられていた。南アフリカではマンデラ、ローデシアではムガベ等が率いる黒人による独立運動に対する国際的な支援が徐々に高まり、80年頃にはこの二つの白人社会は、黒人によって解放され、世界はこの両国の将来に期待し喝采を送ったものだった。

その後、30年余り、この両国が本当に解放され、人種差別のない近代国家になったといえるだろうか。

特に、ジンバブエという新国名となったローデシアの場合はどうだろうか。

旧支配者である白人は逆差別的な暴力によって黒人解放勢力により徹底的に放逐された。旧支配階級の没落は、あれだけの人種差別政策で得たいわば悪業の報酬であったことをかんがえれば、当然だという見方もあるが、それではその分、旧被支配者であった黒人たちが幸せになったのかといえば―――。

拍手をもって迎えられた独立の英雄ムガベは、今も独裁者として君臨し、その一族と側近による汚職、腐敗はとどまるところを知らない。

経済は壊滅的な状況となり、天文学的な超インフレによって国民は悲惨な状況におかれ、今やジンバブエは世界最貧国に転落している。解放前より今の生活の方が果たしてよいといえるのだろうか―――。

作者、ペティナ・ガッパは父の赴任先であるザンビアで1971年生まれた。独立の時には9歳だった。ジンバブエで法律を学び、後ケンブリッジ大学に留学、世界貿易機関で働くなどの後、ジンバブエに帰国したという経歴の持主だが、13篇の短編が収められた本書がデビュー作である。

解放を経て独立するも、悲惨な経済と腐敗しきった独裁政治の下にあるアフリカ最貧国母国ジンバブエに生きる人々を題材にした13の短編は、いずれも、外の世界には余り知られていないであろうこの国の現実の姿を、淡々と描写している。

解放戦士の一人として戦い、後に政府要人として大統領一派にあった夫の国葬に参列するその英国人妻。実は女たらしであって散々自分を苦しめながら、今や、英雄として葬られようとする夫、その夫を弔辞演説によって賞賛することで益々自らの権威を高めようとする大統領―――といったまさにこの国で現実に起きているのではと思わせる情景が、淡々と語られる。夫にも大統領にも嫌悪を感じているこの未亡人は、この国に骨を埋める覚悟を決め、大統領にたいしてしたたかな取引を申し出る−−−一という「軍葬ラッパが鳴り終えて」をはじめ、13の物語のテーマは多岐に亘るが、そのいずれもが日々焦燥をかかえながらも、致し方なく現状と妥協してやり過ごしているジンバブエの人々の心情を活写している。

アフリカにこんな才能ある作家がいることを知ったのは喜びだが、よく、このような作品を見つけてきたものだと出版関係者の慧眼にも感心させられた。