オレって老人？　　　　南伸坊　　　　　　みやび出版　　　　

「昭和軽薄体」なども言われた軽妙でおかし味のあるこの人の文章の真骨頂が味わえる一冊。もちろん肩肘張って読むべき必要はない、軽コラム集といった趣の一冊だ。

今年66歳になる著者が50代前半から最近に至る自らの日常の中で経験し、体感した「老い」に関する軽文が纏められている。

まさに同年代の自分にとっては「ある！ある！」と共感する話ばかりが収められていて、吹き出したり、自嘲気味ににやりとしたり、しながら一気に読んだ。

自らの子供時代、あるいは遠い昭和の時代を思い出して懐かしむのも我々初老世代の特長なら、又、自らの老いの自覚に戸惑う日々のエピソードも又、大いに共感するものばかり。ある意味ではベビーブーマのおじさん、おじいさん達の居酒屋談義にもにた気安さが大いに楽しめる。

只、著者はが「老い」を嘆き、諦めている訳では全くない。いやむしろ、なんだか「老い」を新たなる体験として楽しんでいるようにも思えるのは、自分自身の「老い」に対する心構えが著者のそれと非常に似ているからかも知れない。

妻と二人暮らしの著者が外出する時、結婚以来30数年になるというツマの文子さんは必ず、「クルマには気をつけてね」「右見て、左見て、クルマが来ないとわかってから渡るんだよ」「クルマにはねられたらグチャグチャになっちゃうからね」と妙に具体的に注意する−−−というくだりを読んだ時には、小学2年生の子供に諭すような口調で常にタカさんに注意して止まない妻のことを思い浮かべて抱腹絶倒した。

こんな稚戯のような会話が成り立つのも、老夫婦になったからこそだと思うとあらためて「老い」も悪くはないなぁ〜と思う。