清洲会議　　　　　三谷幸喜　　　　　　幻冬舎文庫　　　　　　　　

天下統一を目前にした信長が、光秀の謀反によって倒れた。信長亡き後の織田家を継ぐのは誰なのか。世に有名な清洲会議においてこの後継者問題が話し合われた。

数々の戦国ドラマを生んだこの時代だが、スペクタクルとしての戦闘で見せるのではなく、会議における駆け引きという心理劇で見せるこの清洲会議は、まさに現代の売っ子脚本家である三谷幸喜にとっては誂え向きの題材といえるだろう。

後々に作品を映像化することを織り込んだようで、本書も帯に「時代劇エンタテイメント」とあるように、全体を喜劇仕立てにする意図を込め、登場人物全てに「現代語」で語らせ、会議の推移をシナリオ的に時系列に描くなど、数々のエンタテイメント作品をヒットさせている三谷幸喜らしい手慣れた作品になっている。

秀吉も勝家もお市の方も、みな現代語というよりは最近の若者言葉風の言葉でしゃべりカタカナ言葉自由自在というのだから―――。

後継者争いに名を借りて、ゆくゆくは織田家を乗っ取り天下取る、という野心に燃える秀吉、武力には秀でておりしかも織田家に対する忠義を貫こうとするもいささかおバカに過ぎる勝家、そして勝家の自分に対する恋心を利用して、恨み重なる秀吉の企みを潰そうとするお市の方、といった各登場人物が、それぞれ独白によって自らの本音を語る、という心理ドラマ風の仕立ては、目まぐるしい場面転換効果を生み、全体のストーリーを活き活きとしてスピーディーなものにしているところも、この作品が、いかにも映像向きと思えるものにしている。

細かいことを言えば、勝家があまりにも単細胞に描かれているなどの歴史家などからは文句も出そうなところもあるが、この作品は、「喜劇」を得意とする三谷幸喜が「清洲会議」にヒントを得て作ったエンタテイメントであり、歴史とは全く別物であると考えるべきなのだ。

それにしても、3歳になる三法師を抱くことによって必然的に織田家の重臣たちが秀吉に頭を下げる形になってしまったという、実に見事な演出を実際にやってのけた秀吉という人物の驚くべき知恵にあらためて感心させららた。

(13年7月発行)