騎手の一分　　　　  藤田伸二　　 　　　講談社　　　

嘗ては臭くなかった馬糞も、高栄養のペレット状の飼葉にさらに大量の栄養剤やサプリメントを与えるようになってからは人間のそれ並みに臭いものになっているという。

競馬は本来順位を争うものだったが今や順位とともにタイムを争うものになってしまっている。

馬主、調教師、厩務員、騎手といった競馬サークル間の義理、人情といった要素で成り立っていた人間関係は、今やエージェントといわれる仲介者の介入によって、レースに勝つため、賞金を稼ぐためのビジネス関係にとってかわられている−−−。

年間100勝以上の勝利数をコンスタントに挙げ、フェアプレーの騎手として実績を残してきた現役騎手である著者の現代競馬界に対する嘆きは、絶望に近い物になりつつあるという。

功成り名を遂げたという思いもあるからだろうか、競馬界がこのままであるとするならば、自分は最早競馬界を去ることに全く未練はない−−−とまで言い切る著者による競馬の現状に対する苦言は、著者が実績を残し名騎手の一人に数えられるだけに、傾聴に値する。

82年には252人いた騎手が今や130人に半減している。観客動員数もピーク時の半分以下である。なぜ競馬がこんなにも魅力を失ってしまったのか−−−この状況を改善できる方策はあると著者はいうが、その改善策に着手すべきJRAの怠慢こそがこの競馬の衰退の原因だと喝破する。

著者の指摘は鋭く、嘆きは深い。