マチュピチュ探検記　　　　　マーク・アダムス　　　　　青土社　　

2年ほど前、どうしても行きたいと思っていたマチュピチュを訪れ、あの謎の天空都市を見た時の感激を一生忘れることはないだろう。

インカ帝国がスペイン人に征服された16世紀はじめ、マチュピチュから忽然として人々が消え、このインカの壮大な遺跡は歴史のかなたに埋もれてしまった。1911年、イエール大学教授であったハイラム・ビンガムが再びこの地を訪れるまでは−−−。

クスコからマチュピチュへの登り口であるアグアス・カリエンタス迄、ウルバンバ川にそって走る列車の名前は「ハイラム・ビンガム号」であるように、いまでも彼の名前は西欧諸国では「マチュピチュを発見した英雄的冒険家」として名高い。インディー・ジョーンズのモデルとも言われる彼の名前を列車の名前につけるというのは、西欧からの観光客誘致に熱心なペルー政府観光庁のアイデアなのだろう。

しかし、ペルー国内では彼はかならずしも英雄ではない。寧ろ、過剰な売名家であり、自らの業績を殊更に過剰宣伝したし、ペルー政府を騙して遺跡から数万点に及ぶ宝物をアメリカに持ち去った墓泥棒である、とする声も多い。現実にビンガムの発見から100年が経過しているが、マチュピチュから彼が持ち去った遺物の多くは現在もアメリカとペルーの両国間で返還の為の訴訟が進行中である。

2年前に案内してくれた現地のガイドも「ハイラム・ビンガムがペルーを発見した訳ではない。コロンブスがアメリカを『発見した』時に既に多くのアメリカインディアンがそこに住んでいたように、ビンガムが訪れた時、マチュピチュには実際、現地人の数家族が住居を構えて住んでいた！」といっていたし、2000年にはビンガムよりも50年も前にカナダ人がここに到達し、記録にも残しているという事実が判明している。

本書では著者自身が、100年前にビンガムが辿った道を忠実に踏破した新たな探検記でもあり、またビンガムのマチュピチュ発見にまつわる数々のエピソードを追い、マチュピチュが忽然とジャングルの中に埋もれた時期のスペイン征服者とインカの闘争の歴史や、アメリカとペルーで争われる訴訟の経緯などをも含む、新たなるマチュピチュ探検記でもある。

マチュピチュの最盛期、インカ帝国中に張り巡らされていたインカトレイルは、ビンガムがここを訪れた時にはジャングルに埋もれていた。ビンガムが発見し切り拓いたこのトレイルも、100年後には再びジャングルの密林に埋もれていた。著者達の一行は再びそのトレイルを切り拓きつつマチュピチュに迫るのだが、この冒険行は間違いなく新たなるマチュピチュ探検記といってもよいほどの迫力と臨場感に溢れている。

全てが実体験に基づくということもあってか、いささか描写が細かすぎるし、どうでもよいような話がダラダラと続く−−−といった難点はあるものの、まちがいなく近年にはない上質の冒険行の記録である、ということができる。100年目に明らかになったマチュピチュの真実とは−−−優れたノンフィクションといえる。