海賊党の思想　　　　浜本隆志　　　　　　　白水社　　

著作権という権利が暴走をはじめているのではないか、という懸念を持ち続けてきただけに本書で述べられている海賊党の主張には大いに興味を持ったし、共感できる部分も多い。

先日、NHKのドキュメンタリーでも取り上げていたが、2006年にスウェーデンで設立された海賊党は、その後ヨーロッパを中心とした各国でも続々誕生、現在、ドイツなどの議会では既に少数ながら議席を持つ政党に成長している。

元々の彼等の主張は、インターネットを中心としたネットにおける自由な言論空間の拡大である。安全保障あるいは著作権侵害に名を借りた様々なネット規制は、拡大し続けるネット空間の自由を制限するものであり、海賊党の主張とは真っ向からぶつかる。

音楽や映画などのデータやソフトを「海賊版」と呼ぶことからもじっての「海賊党」というネーミングから、「パクリ」を奨励する無法者の集団、との誤解を受けやすい彼等だが、彼等の主張、例えば「著作権は権利者の死後70年は長すぎる、精々5年にして以後は、人類の共有財産として自由使用を認めるべきだ」といった点などは、おおいにうなずきたくなる。

アノニマスなどを中心とした政府などによる情報規制に反対する運動も、既存の権力側にとっては敵と捉えられるだろうが、これだけネットの言論が圧倒する時代になれば、いつまでも国家機密という名の下に一部の権力側だけがこれらの情報を握っていることの方がおかしいのではないか―――という考え方が出てきてもおかしくない。

アノニマス同様、海賊党が主張する「インターネット空間の自由」「情報の共有化」という問題は、つきつめると営々と築かれてきた現在の政治体制、社会体制の破壊にもつながるものであることから、海賊党などのいわば「革命勢力」に対する既存権力側の攻撃は凄まじいものがある。

グーテンベルグによる印刷技術の革命が、それまで教会が独占していた「聖書」という情報を、一般大衆に開放したことで、以後の社会が大きく変わったように、今権力が規制などによって独占している「情報」をインターネットが完全に開放することができたとしたら、間違いなく社会は革命的に変わる可能性がある。そういう意味で、海賊党の動向は我々も大いに注目しつづけるべきではないだろうか。

ワンイッシュー政党として出てきた海賊党だけに、果たして右翼なのか左翼なのか、福祉政策は？環境政策は？等々において党として未熟さも出てきており、今、海賊党は岐路に立っているともいわれるが―――。

人類社会におけるレジュームチェンジの核になりうるだけの可能性を秘めたムーブメントとして、海賊党の今後に注目していきたい。