植物はそこまで知っている　　D・チャモヴィッツ　　　河出書房　　　

食虫植物であるモウセンゴケの捕虫が面白くて飽かずに見ていたことがある。

獲物になる虫が粘液のある繊毛に触れるとモウセンゴケはその虫をあたかも手づかみするかのように巻き込んで捕らえ一日ほどかけて消化、そして羽などの消化できないものはポイと捨て再び次の獲物が触れるのを待つ体制に入る。

面白半分にモウセンゴケの繊毛を鉛筆などでつっついても、あたかも「これは、食えネェな」と判断したかのように反応しない−−−目もなく触覚を感じる神経系も脳もないのに、なぜモウセンゴケは虫と鉛筆を識別し、また、虫ならば実に賢い方法でそれを捕まえておくことができるのか−−−。

それは、食虫植物は、獲物が繊毛の1本目に触れたときは動かず、2本目で葉を閉じるというシステムを持っているからだが、それはすなわち食虫植物は、「1本目に触れた」という情報を、「2本目に触れる」まで保持するシステムすなわち「記憶」の能力までもっているということになる！

本書はそんな脳や神経系を持たない植物があたかもそれを備えているかのように五感を検知し反応するシステム、そして「記憶」するシステムについて語った、なんとも不思議で衝撃的な一冊である、

植物と動物は今から35億年前に誕生したといわれる原始生命という共通祖先を持っていることを考えれば、方や移動しない生き方を選び、方や移動する生き方を選んだとはいうものの、お互いが進化の過程で生きる為に必須な要件である知覚や記憶などの能力を、それぞれ異なるシステムによってではあるが、発達させたであろうから、別に植物に知覚能力や記憶能力があるからと言って不思議がる必要などないということにはなるのだが−−−。

生き物の、特に植物の不思議に触れることができる、興味深い一冊といえる。