支配への競争　　　アーロン・フリードバーグ　　　日本評論社　

中国のGDPが日本を抜いて世界第二位になったのは確か2011年だっただろうか、あれからわずか2年程でその差は更に開き、中国のGDPは今や日本のそれを3割も上回り米国の半分にも達する勢いである。

負け惜しみ気味に「なあに、中国の人口は日本の10倍もあるのだから一人当たりにすれ未だ日本の1/7に過ぎない」等という解説もないではないが、いやその凄まじい快進撃振りからすれば、中国があらゆる意味で日本の経済力を抜き去る日が、いずれはくるかもしれない。

世界一の経済力、軍事力を持ち世界秩序の番人として君臨してきたアメリカにとって、いや世界情勢にとって、この中国の台頭は実に由々しき問題である。

国際政治学、地政学の面からみて、この台頭しつつあり既にあらゆる面で大きな影響をおよぼしつつある中国に対してどのように対処すべきなのか、そしてどのような将来像があるのかを分析することは極めて重要だ、

著者は、ジョージ・ブッシュ政権ではチェイニー副大統領の国家安全保障担当副補佐官を務めたプリンストン大学教授で、実務経験に基づく高度な国際関係、外交・防衛問題の分析には定評のある論客だ。

本書は、そんな著者による米中関係の、世界的視野、そして過去・現在・未来にわたる歴史的視野での、極めて広範な包括的、大局的な国際政治分析であり、ハンチントンの文明比較論などを凌駕するスケールを持った名著ともいってよいものだと思う。

米中関係の将来について、いくつかのシナリオを描き、その詳細について理論的解説を加えながら将来性を提示する、という筆法は、非常に説得力があり、それぞれのシナリオの中で触れられる、日本の役割、あるいは影響力といった部分も、説得力がある。

何しろ、本文350ページに及ぶ中味の濃い論文だが、最後まで飽きさせない魅力がある一冊だ。

但し、最終結論的にかかれる著者の中国の未来に関する期待（希望）が、「中国が民主化することで米中宥和、世界平和につながる」という部分は、最近の中国においてますます強まる、民主化弾圧、あるいは対外的、国内的な強権化をみていると、さすがの論客でも「見通しは甘いなぁ〜」とおもわないではない。

いや、むしろこのまま中国が進むといずれは米中対立、世界（特に太平洋の半分）における中国覇権支配という悪夢さえ日に日に迫っているのではないか、という未来図さえあり得るのでは−−−とも思えてくる。ペシミスティック過ぎるだろうか。