ビッグ・ファーマ　　　　マーシャ・エンジェル　　　篠原出版社　　　

著者は権威あるニューイングランド医学雑誌の前編集長。その著者が、本来は「役にたつ薬を作り出すという高い志」をもっているはずの製薬業界が、本書が書かれた05年迄の20年間で、その志とは遠くかけ離れたことをする倫理に欠けたマネーメイキンマシーンに変身してしまい、価値の疑わしい薬を売りつけ、儲けの為ならば、あらゆる不正、詐欺行為を働く業界に成り下がってしまった実態を鋭く描いたものだ。

ここで挙げられる、製薬業界の金儲けの為の手練手管の数々は、全て著者自身が集めた実地のデータに基づいており、その説得力たるや圧巻だ。

製薬業界がその富と力を米国議会、FDA、大学病院、医師会といった組織の買収、誘導に努めているという克明な告発は、アメリカという社会がいかに製薬業界によって蝕まれているかの衝撃レポートである。

今年日本でも、ノバルティスファーマが各大学病院に巨額の寄付を行い、研究員と名乗った自社の社員を使って治験薬データを捏造していたことが問題になったが、儲けるためならば治験データさえ改ざんするということが、製薬会社を主犯として大学などの研究機関が共犯として行われていた衝撃は大きかったが、本書を読めばノバルティスがやったようなことは、アメリカでは既に05年の時点で日常茶飯となっていたこと、アメリカでは医師会、大学、研究機関、そして政治家までもが皆共犯者であり、今も一向に是正されていないというのだから−−−。

そういえば、このノバルティスのデータ捏造、未だに一人の逮捕者も出ていないし、不問に付されそうな気配でもあることを考えれば、医薬品業界全体がなんだか「巨悪の集団」であるかのようにさえ思えてくる。