本当の戦争　　　　　クリス・ヘッジズ　　　　　集英社　　

戦後70年近くが経とうとしているが、この間日本は戦争をしていない。自衛隊という戦力を持ち勿論、戦いに備えてはいるといえいわゆる戦死者は70年間出ていないということになる。

アメリアはどうだろう。第二次大戦で40万人近い戦死者が出た後も、朝鮮戦争で3万3千人、ベトナム戦争では各4万７千近く、近年の湾岸戦争、イラク戦争、アフガン戦争などでも2000人規模の戦死者を出しているように、この70年近く、アメリカが戦死者を出していない年はないとすら言える状況にある。

戦争を経験した世代が、少なくなり彼等の戦争体験を聞く機会も少なくなった今の日本人にとって「戦争」といわれても、現実感をもって想像することすらできなくなっているが、一方、アメリカ人にとっては、戦争は身近な存在なのではないだろうか。自分の住んでいる町から、イラクやアフガンに行った若者が、戦いで傷つき、あるいは戦死を遂げた、という例が身近にあるとしたら−−−。

本書の副題は、「すべての戦争について知っておくべき437の事柄」とあるように、アメリカ人向けに彼等の身近にある「戦争」とはいったいどんなものなのかをQ&A方式で描いたもので、情緒を抜いた乾いた調子で語られる戦争は、ハリウッド映画やテレビゲームの戦争に慣れ、どこかといえば絵空事に思えていた「戦争」の実に生々しい姿を伝えており、ある種の戦慄さえ覚えるものだ。

Q.からだのどの部位を負傷する可能性が高いですか。A.すべての負傷の40％までが爪先から太ももまでの怪我。腕と手が25%、頭と頸が15%、腹腔や骨盤が残りの10%。

Q.戦闘で人を殺すと、罪悪感を覚えるでしょうか。A.その可能性は高い。

Q.死んだあと、自分の体はどんな様子でしょうか？　A.心臓の鼓動が止まると１分の間に顔から血の気が引く。約５分で目の輝きが失せる。灰色の薄い膜がかかったようになる。眼球がやや平になる。肉体は厚切りの肉のようなたるんだ感触になる。

著者はNYタイムスなどの従軍記者として21年間の戦争経験を持つだけに、QもAもいずれも超現実的、超リアルだ。

戦争を絵空事ではなく、こういう形でリアルに捉えてこそ、本当に戦争を語り、平和を語る資格があるのではないか、とすら思った。