今年89歳で亡くなった著者が若干27歳の時に著わした本書は、上梓当時から高い評価を得、今も国際政治学、戦争論における古典としての地位を保っている。

人類は古くから、平和が尊く、戦争はいけないことだという認識を共有している。

しかし、人類はなぜその「いけないこと」である戦争を繰り返しているのか――本書で著者は、その原因として「人間そのもの」「国家という集合体」「国際システム」の三つのシナリオ（著者のいうイメージ）を挙げ、それぞれについて、冷徹な分析を進め、シナリオごとにさてそうだとすると平和を求める処方箋はどうなるのかを説いていく。

それぞれのシナリオにおいて引用されるルソー、モーゲンソー、アダム・スミス、マルクスといった思想家、及びその文献は実に豊富であり、若き日の著者の碩学振りには驚かされる。

戦争が人間の「本性」に根ざしているとするならば、戦争をなくすためには人間の本性を変えなければならない、その為の処方として著者は例えば教育や啓蒙を挙げる。

もし、戦争が「国家の欠陥」によって起こるとするならば、たとえば一つの方法は、「国家」をなくすことかもしれないが、共産主義国同士が争い、民主主義国同士が争うといった現状をみれば、これはどうも難しそうだ。（そもそも、欠陥のない国家というイメージが湧いてこないではないか−−−）

「国際システム」の欠陥が戦争の原因だとすれば、国際制度の充実をはかるべく、世界政府や国際機関の強化をはかるべきかもしれないが−−−。まあ、この先1000年は無理だろう−−−。

著者の最終結論は。考えられる戦争原因の三つを同時に改善していかなければならない！という至ってシンプルな（しかもがっかりな）ことなのだが―――ということは、(少なくとも当面は)人類社会がある限りは戦争はなくならない、ということを著者は言っているのだろうか。

結論を求めるのではなく、戦争について深く考える為の一冊であり、その意味では実に興味深い一冊だ。