現代中国の父 �ｹ小平(上下)　　　エズラ・ボーゲル　　　　 日本経済新聞社　

様々な問題はあるものの13億の人口を抱える中国という国が（名目的であるにせよ）社会主義という体制の下に未だに崩壊せずに纏まっていられること、そればかりではなくアメリカに次ぐ経済大国となり、世界の覇権すら握りかねないほどに発展していることは、まさに奇蹟とさえ言えるのではないかと思う。

勿論、数え切れないほどの功労者がいることは事実だが、その中でもこの現代中国を作った第一の功労者といえば、それこそ�ｹ小平だろう。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の著者による本書は、上下二巻、全1000ページを上回る大作だが、この現代中国の基礎を築いた男、�ｹ小平の波乱万丈の評伝、すなわちそれはとりも直さず中華人民共和国の歴史、現在、そしてこれからを余すところ無く描いた大作ということになる。

ボーゲル自身、�ｹ小平には会ったことがないというが、ここまでの掘り下げた大作を（全編が、実に詳細な時系列で描かれている）本人とのインタヴューもなしで描ききるためには、どれほど多くの関係者とのインタヴュー、資料探索が必要であったのかを思うと、この著者の評伝作家としての力量の凄さが分かろうというものだ。

中国建国の偉人とも言われる毛沢東だが、大躍進、文化大革命などの致命的な過ちによって数千万人を死に到らしめたことは有名だが、彼はその責任を取らずに却って彼の批判者を葬り去るなどによっていわゆる恐怖政治を敷き、中国の発展の阻害要因になったことも確かだ。彼はそんな毛沢東によって三度も失脚させられながら、その能力によって三度復活、毛沢東亡きあとには遂に最高実力者の地位に上りつめ、毛沢東によって毀損された中国の制度、人心を立ち直らせ、結果今日に近代中国を作った。

ワンマン振りを発揮しつづける毛沢東の下で彼がどのように身を処したのか、彼のそういったタフさの源は何であったのか、四人組や、華国鋒、あるいは路線の違いによる党内での主導権争いを彼はどのように戦い抜いたのか−−−。まさに、ドラマ以上のドラマといってもよい、�ｹ小平の生涯を息もつかせず読ませる。

�ｹ小平が最高指導者の地位についてからの中国の近代化をはかるための外交交渉の詳細にもかなりのページを割いており、近年のギクシャクした日中関係のその淵源がどの辺りにあるのか、あるいはどこに間違いがあったのか、等を知る上でも、本書の詳細な分析は実に参考になる。

只、ボーゲル自身が�ｹ小平という人物にかなり惚れ込んでしまっているからだろうか、�ｹ小平の業績のうち、天安門事件で軍隊を民衆に向けたとか、民主派といわれる胡耀邦や趙紫陽をはじめ、一時は自分の協力者であった多くの仲間を冷徹に切っていったなどの、強権的な面に対する言及が少ないように思えるところは、ちょっと評伝としては偏りすぎではないかと思う部分もあるが。