道浦母都子全歌集　　　　道浦母都子　　　　河出書房新社　

道浦母都子は1947年生まれ、早稲田大学在学中に全共闘運動に参加、その約10年後に自らの全共闘時代を綴った短歌集「無援の叙情」を発表した。

もっとも、道浦母都子は団塊世代の全共闘運動の女性活動家としては、運動と自らの青春の苦悩、葛藤の末に鉄道自殺をとげた「二十歳の原点」の高野悦子や、赤軍派リンチ事件の主犯、永田洋子のように知られた存在ではない。

それは、高野や永田が結局は活動家以降の人生がなく、ある意味では活動の苦悩や矛盾を抱えたまま死んだ（永田の場合は死刑囚のまま獄死した）ところにいわば｢活動家｣としての｢完結｣があるからだが、道浦母都子の場合は、活動家から元活動家になり更には「歌人」などというまあ、言ってみれば活動家とは対極にある体制の一員となったという長い人生遍歴、悪く言えば変節があったことで、高野や永田のような「完結」感がないことが中途半端に思えなくもない。

道浦母都子と、おなじように全共闘運動に多少なりとも携わり、その後猛烈サラリーマンなどになっていった同世代の活動家にとっては、全共闘運動が完全に下火となった80年代になって余り思い出したくもない時期のことを、あらためて「昔の思い出集」のような歌集を出した彼女にはアンビバレントな思いが強かったのではないだろうか。

高野や永田のような「突っ走り型」は言ってみれば特攻で戦死した者たちであり、道浦は、死にそびれた後に、乗組員であったことを自慢げに吹聴している元特攻隊員のように見えたのかもしれない。「転向した元女闘士」といった雰囲気を感じた人々、特にみずからも運動に挫折し、後に猛烈サラリーマンに変身した自分達同様の気恥ずかしさを感じた同世代の男性達が、彼女の存在をある意味では苦々しく思ったのではないだろうか。

「変節の恥ずかしさ」を持つ、多くの全共闘世代がそうであったように、道浦母都子もその後、日本社会の中で体制の一員として（時には昔を懐かしみながら）生きながらえてきた訳だが、そういった彼女の人生の変遷を、ある意味では赤裸々に（かなりの数の歌が、取捨選択されているというが）集められた本歌集は、同世代を生きてきた女性の告白を聞かされるような面があり、ちょっと面映いと同時に、同列で走るランナー仲間のような共感も覚えるものだった。

1980年発表の「無援の叙情」から1999年の「青みぞれ」までの6冊の歌集が掲載されている。近代短歌とでもいうのだろうか、告白、嘆息調の短歌は、現代でいうならツィッターのようなものが多く、印象に残る歌も多くはないが、次の歌などは印象に残った。

　神田川流れ流れていまはもうカルチェラタンを恋うこともなき（無援の叙情より）

　生きていれば意志はあとから従きくると思いぬ冬の橋渡りつつ（無援の叙情より）

　生きるとは夢を断つことおもむろにぽつりぽつりと折る傘の骨（青みぞれより）

　午後六時ベッドの上に正座して吾を待つ母よ鳩の目をして（青みぞれより）

(05年4月発行)