来るべき民主主義　　　　國分功一郎　　　　幻冬舎　　　

「民主主義」とは、例えばリンカーンによれば「人民の、人民による、人民のための政治」だといわれているが、「民主主義」日本で暮す我々には実際、現在日本で我々が「人民の、人民による、人民のための政治」を実感しているだろうか。

確かに、何年に一回は選挙という形で「政治参加」していると教え込まれているが、そこで選ばれる選良たちが、自分の代わりに政治を動かしているとはとてもいえない。

国会は立法府といわれるが、そこでも多数決で法律が決められるだけで、実際にその法律の運用を司るのは我々が選んだ訳でもない役人たちであり、道路建設計画一つにしても、我々がこの建設路線の決定に「民主的」にかかわっている訳ではない。

13年5月、東京の小平市で、半世紀も前に作られた道路計画を見直してほしいという住民の声によって東京都初の住民直接請求による住民投票が行なわれたが、行政はその住民投票の直前に投票率が50%に達しなかったたら不成立という投票ルールを作成、住民の直接請求は葬られた。

住民運動に携わった哲学者である著者は、現代民主主義には、単純にして重大な欠陥がひそんでいるという。

こういった欠陥を補う方法として著者は「行政の決定プロセスに関与できる仕組みを加えることが必要」だと訴える。具体的には一定数を超えた住民請求に対しては、議会の意向関係なく住民投票を必ず実施するという規定を盛り込むべきだ―――というのだが―――。

通読して思うのは、著者の主張する「民主主義の欠陥」は全くその通りだし欠陥を補い「来るべき民主主義」への道が行政の意思決定になんらかの形で「民意」に参画させるべきだという議論も、まあ、一見正しいようにも見えるが―――。

それでも、「民意」とは具体的に何を意味するかが曖昧である以上、この「住民投票による住民の意思」なるものも実はかなりいい加減なものに過ぎないという気がしてならないだけに著者の民主主義論にはおおいに違和感を持つ。

ある地域に火葬場の建設計画があったとすれば、当然、その地元は反対するだろう。その地区を対象にして住民投票を行なえば建設反対案が可決されるだろう。もしその住民投票の投票率が最近の市町村議選のように投票率が20%台だったとしたら―――やっぱりその結果が、「民主主義に基づく民意の決定」といえるのだろうか−−−。

著者がかかわった小平の道路建設にしてもそうだ。もし、著者等の「一部地区の住民の意思」によって長大な道路の一部がぶつ切れになっているとしたら―――。困るのはひょっとしたら東京都のいや日本中の道路利用者、すなわち「多くの民意」だということになる。

民主主義は欠陥だらけの制度であることは、今や否定する人はいない。少数派の反対で多数の利便が失われる場合、逆に多数決によって少数の人々の権利が奪われる場合、いずれもが「民主主義の欠陥」といわれるだろう。著者のいうように少数の地域住民の意見が通らなかったからといって「民主主義の欠陥だ！」と叫ぶのは、「本当にこの方は政治哲学者なのか？」と思わざるをえない。

「民主主義は最悪の政治形態といえる。これまで試みられてきた、民主主義 以外の全ての政治体制を除けばだが」というチャーチルの言葉通り、我々はこの欠陥多き制度とどうにか上手く付き合っていくしかない。

本書の主張が、政治哲学者だという著者のいう「民主主義の理想像」だというのだとしたら余りに稚拙な主張といわざるをえない。