イザベラ・バード　　　　　パット・バー　　　　講談社　　　　　　　

イザベラ・バードが、明治11年に著わした「日本奥地紀行」は、明治初期の東北、北海道の風土、民衆の暮らし、文化をつぶさに著わした貴重な資料としていまも数多くの文献などに引用されている。

大きく西洋化に梶を切りそれまでの伝統を容赦なく脱ぎ捨てつつあった日本だが、東北、北海道にまでは本格的な変革の波は訪れていなかった。人々は無知であり、彼女にとっては醜く、卑しく見える部分もあったが、無垢で純朴という面ももちあわせていた。

彼女にとって当時の日本は、不潔で非道徳な面と、人々がおおらかで精神的に豊かさをもつ桃源郷のような面との両面を持つ国に見えたのだ。

明治初期というこの時期の日本を内側から見た日本人の記録は多くあっても、外国人、しかも女性が見た記録は少なく、彼女の著作は紀行としてのみならず日本文化史、風俗史の資料としても実に貴重だ。その意味では彼女のこの「日本奥地紀行」は、これからも益々その歴史的価値を高めていくことだろう。

実は、イザベラ･バードの著書はまだ読んだことはない。

本書も彼女の評伝であって、彼女が残した「日本奥地紀行」紀行を含むいくつかの著書のダイジェストに過ぎないだけに、彼女の業績を評価できるような立場にはないが、今から150年近く前、女性旅行家としてまだ世界から見たら未開の地であったであろう日本を訪れ、東京や京都ではなく、東北や北海道を単身旅したという彼女の事績は、今でいうならば月にはじめて旅行した女性宇宙飛行士といったところだろうか。それだけでも読む価値は相当ありそうだ。

今も、「海外が日本をどう見ているのか」を気にする日本人にとって、イザベラ・バードが今から150年前にみた日本がどうであったかを知ることは、おおいに参考になるのではないかと思う。

是非「日本奥地紀行」を読んでみようと思う。