そして最期にヒトが残った　　　C・フィンレイソン　　白揚社　　　

直立二足歩行をすることによって脳を発達させた人類、その人類が誕生したのは今から400万年前とも500万年前とも言われている。

誕生以来数百万年の間に少なくとも数十種類の人類が生まれそして絶滅し、今や地球上に残された人類の種は我々ホモサピエンスだけである。これだけの繁栄を誇るホモサピエンスだが、地上に現れたのは今からわずか15-20万年ほど前に過ぎない。

我々以外の人類はなぜ絶滅してしまい、我々だけがなぜ唯一生き残り今や70億人を越えるほど繁栄し地球そのものさえもその市配下におくに至ったのか−−−。

我々が他の滅び去った人類に比べ優れていたからなのだろうか、それともそれは単なる幸運に恵まれたからにすぎないのだろうか−−−。

例えば今から1万数千年前までの30数万年に亘って生きていたネアンデルタール人は、我々ホモサピエンスよりもはるかにたくましい体と、我々よりも大きな脳を持っていたというのに、何故絶滅してしまったのだろうか。

本書は、最新の古人類学研究の解説書である。特にネアンデルタール人が滅び、ホモサピエンスが今日の繁栄を得るに至った原因を中心に、気候変動、脳科学、DNA解析を中心にした遺伝学研究に基づいて展開される新たな説は、上質でスケールの大きな科学ミステリーを読むような面白さがある。

著者の説は、我々ホモサピエンスはネアンデルタールに比べると弱い存在であり、常に厳しいギリギリの縁の環境に追いやられてその辺境で生きていかざるをえなかったことが、環境の変化、植生の変化に合わせて自らの種を変化（進化）させざるをえなくさせていた。すなわち、我々ホモサピエンスが「イノベータ」として進化したのに比べて、常に、豊かな環境の中心を占めていたネアンデルタール人はその環境が大きく変化する時に、自らを新しい環境に合わせて変化させることができなかったために絶滅の道を歩んだのではないかという。

ダーウィンの言葉「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものでもないし、最も頭のいいものでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」という適者生存の法則がネアンデルタールとホモサピエンスの運命を決めた、という著者の主張には大いに説得力を感じるし、この法則が今を生きる我々一人一人にも多くのことを示唆しているようにも思う。