変わるエジプト、変わらないエジプト　　師岡カリーマ　　　白水社

エジプト人の父と日本人の母を持つ著者は東京生まれ、現在44歳だ。子供時代は日本とエジプトを行き来して育ったが、中学入学から大学卒業までエジプトで過ごした。

現在も、日本とエジプトを行き来し、NHKのアラビア語講座キャスターを務めるなどしているが、エジプト、アラブの若者たちの生活、文化、意識、などを紹介のする著作も多く、エジプト、アラブ問題を語らせたらまさに最適人といってよい人である。

本書は、そんな彼女による22編のエッセーからなっている。エジプトの文化、風習、料理や音楽といった話題から、現在エジプト、アラブにおける政治情勢、あるいは宗教問題等、取り上げる話題は多岐に亘り、多少纏まりがないようにも思えるが、一冊でエジプトを知ろうとするには寧ろ最適な一冊ということもできる。

いまからもう30年近く前になるがエジプト（アレキサンドリア）で暮していたこともあって、本書の中でえがかれているエジプトの人々の風習、食べ物、音楽の好みや（その頃には、今人気があるというラップなどはなかったが）、物の考え方、あるいはユーモア好きな性格、といった物が実になつかしかった。

又、日本から見ていて実に分かり難い、ムバラク追放後のエジプトの政治状況（何故、ムルシが大統領に選ばれ、その後民衆と軍隊の力によって追放されたのかとか、民衆の治安警察に対する不信と軍隊に対する信頼といったことを含む）に関するエッセー、ムスリム過激派に対するエジプト一般民衆の困惑、といった事柄の解説は実にフレッシュだ。

日本の一般読者が、果たしてエジプトにどれほど関心をもっているのかよくわからないが、かつて暮した懐かしい国の現在に大いに興味のある自分にとっては、実に面白い一冊だった。