日本の南洋戦略　　　　　　丸谷元人　　　　　ハート出版　　

パプアニューギニアやオーストラリアを中心にして南太平洋に関心を示す日本人は少ない。

しかし、著者によればこの地域こそ、豊富な資源に恵まれ、又日本へ向かう物流にとって最重要なシーレーンに位置しているという。

現在、この地域は南太平洋への勢力圏拡張を狙う中国と、オーストラリアを中心とする白人勢力とのせめぎ会いの場所になっているという。

長くオーストラリアの白豪主義によって痛めつけられてきたパプアニューギニアにとっては、かつて自分達と一緒に同じ食べ物を分かち合い、勇敢にこの地で戦っていった日本人に対する親しみの感覚は強い。すなわち、多くの南太平洋島嶼国は「親日国家」の集まりなのだ。

著者のこの地域に対する知識と情熱は極めて熱い。著者は近年、この地域が中国が、「政・官・財・業・軍」のすべての資源投下によって徐々に中国の侵食を受けつつあり、それに対抗しようとする米豪などとの間での覇権争いの渦中にある中で、日本は何をなすべきかを熱く説く。

もっとも、パプアニューギニアにおける汚職状況は一筋縄ではいかないし、米豪と中国の権謀術策凄まじいこの地域、即ち魑魅魍魎の地域で日本が一定の地位を確保することは容易ではないようだ。

もし、日本にとって米豪、中国と違って有利な点があるとすれば、先の大戦時、現地人の信頼を得た日本に対するアジア同胞としての、この地域の人々が今ももち続けている「親日観」ではないかと著者はいう。

余り日本でも報じられることのないこの地域の地政学、政治情勢等々について、おどろくほど詳細に語られている本書の価値は高い。