タックス･ヘイブン　　　　 志賀櫻　 　　 　岩波新書　　　　

この30年ほどの間に、度々起こった国際金融危機、常にその背後にあるのは、人の飽くなき強欲さであるが、その強欲が世界を危機に陥れるほどに肥大化してしまうのには、タックスヘイブンというマネー亡者たちにとっての隠れ蓑があるからだと著者は主張する。

著者は長く国際金融を監督する立場にあったが、税制の根幹を破壊するこのタックスヘイブンの裏事情について本書で詳細に述べているが、いわゆる一般市民とはほとんど無縁の世界で起きている一握りの金持ち達、権力者やテロリスト、闇社会による租税回避などの「悪事」の実体は驚くばかりだ。

タックスヘイブンが実は、豊かな国や機関に保護されているとか、合法の「節税」であるという隠れ蓑などの様々な仕掛けによってある意味では「自由経済」という美名の下に堂々とまかり通っている現実に対して、著者は「これはまぎれもない悪事に他ならない」と鋭く迫っており、その点はなんとも胸が空くものの、だからといってこの「巨悪」が到底一筋縄ではなくならないという現実に、たじろぐ思いがする。