進化の創造力　　　　ヨーゼフ・ライヒホルフ　　 　青土社　

ダーウィンの進化論を否定する学説となるとさすがに最近はトンデモ科学だ！等と言われるようになってはいるが、それでは本当にダーウィンの理論が絶対的に正しくて、それとは多少異なる説は、すべてトンデモ科学かというと、かならずしもそうは言い切れないところはあり、論争は結構続いていると言ってよい。

花にそっくりな姿をしていて、自分を花と見間違えて近寄ってくる昆虫を捉えるハナカマキリが、何千万、何億のカマキリの中でほんの少し花に似たところがあったカマキリが生存競争を有利に戦い抜き、他のカマキリより多少子孫を多く残し、その子孫の中から更にほんの少し花に似た種類のカマキリが更にほんの少し子孫を多く残し−−−という自然選択が何百万世代、何千万年にも亘ってくりかえされた結果、ハナカマキリは花にそっくりな姿に進化したのだ−−−という漸進的遺伝子選択こそが、進化の原動力なのだというダーウィン理論に極めて忠実な、例えばドーキンスの説は、それはそれでもっともらしいが、例えばグールドのように、進化はある日突然、しかも偶然の結果起きるのだ、カンブリア大爆発といわれる突然の多種生物の出現などが、その証拠だとする「断続説」も、これはこれで「なるほど！」と納得させられるところはある。この説によれば、突然の環境変化、例えば隕石の衝突、寒冷化などによって生態系が激変すれば、対応できない生物は絶滅し、偶々この環境激変に偶然適応できた種がそれ以降、繁栄していくのだ−−−と考えれば、あのハナカマキリの奇蹟とも言える擬態も説明がつきやすい−−という訳だ。

著者は、この「漸進説」「断続説」のいずれでもない、「生命体の代謝」が進化の原動力であるという説を主張する。

著者の専門は鳥類の研究であるが、その治験からすると例えば、鳥類がある時期に突然増えたのは、恐竜が絶滅し、更に鳥のえさになる昆虫が増えたおかげで、鳥類は一一気に繁栄したというのだ、すなわち、生命体が進化する原動力は、食糧過剰という非平衡にあるというのだ。

食料を含め生命体にとって常に平衡状態を求めるという自然の摂理こそが、進化という形で現れるのだという説だが、これまた言われてみると妙に納得のいく説である。

生命の謎、進化の謎は、実に尽きない面白さがある。