大江戸商売ばなし　　　　興津要　　　　　中公文庫　　

昭和30年代の初め頃まで、神社のお祭りに「見世物小屋」が出ていた記憶がある。

ヘビ女とかろくろ首などがメインの見世物だが、呼び込みの男は電球を噛み砕いてみせたりしていた。今考えてみると、いかにもインチキ臭い見世物なのだが子供心に、恐ろしくしょうがなかったが、怖い物見たさで呼び込みの口上を飽かずに遠巻きに見ていた記憶がある。

子供だましの見世物であってもテレビもなければこれといった娯楽のない当時、大人にとっても興味津々だったのだろう、随分と客は入っていったように思う。

本書に載っている江戸、そして明治初期までの商売の数々で、今も残っているものは、ほとんどないと言ってよいと思うが、今となっては珍商売の類が成り立っていた江戸の暮らしとは、いかなるものであったのかと、商売から逆に暮らしを発想することが出来るのは、何時の時代も人々の暮らしと、そこで成り立つ商売との間には、密接な関係があるからだろう。

本書は6章に分かれており、カテゴリー毎に、どのような商売があったのかを落語、川柳などを引きながら説明を加えていくというスタイルだが、いまはもう想像するしかない商売を、商いの口上などから活き活きと蘇らせる薀蓄に溢れている。

季節ごとの商売として挙げられている「朝顔の苗売り」とか蚊取り線香代わりの「蚊遣り」売り、行灯の油を売ってあるく「油売り」などという商いは、江戸の庶民の暮らしぶりを彷彿とさせる。

行商スタイルで家々を回る「貸本屋」は、春本も持って歩いていたというから、今でいうならビデオショップのような存在だったのだろうか。

鋳掛屋、瀬戸物焼き継ぎ屋、雪駄直し、下駄の鼻緒屋、などなど江戸のリサイクル精神にも感心させられる。

資料挿絵も豊富で楽しめる一冊だ。