からだのこえをきく　　　　　小池博史　　　　　新潮社　

著者が力説する「舞台芸術」ということば、意味はわからないではないがそれほど知られた言葉でもないような気がしないではない。

舞台でのパフォーミングのことだと考えると、歌舞伎や能といった日本の古典芸能もそうだろうし、松竹新喜劇や新派、あるいは赤毛芝居といわれる演劇もそうだろう。又、舞踏がそれに入るとすれば、その中にはクラシックバレーから、あずま踊り、モダンダンス等々あると思うのだが――。

著者のいう「舞台芸術」は、どうも「舞台」という部分ではなく「芸術」という部分に重点が置かれているようだ。何が「芸術」と「非芸術」を分けるのかというと、そこにこそ著者が本書でいいたいことが詰まっているようなのだ。まさに舞台芸術創作者としての著者による芸術論が展開されているのが本書だと言ってよい。

読み進めるにつれて、何となく著者がいう「舞台芸術」がどんなものであり、著者が言いたいことすなわち「舞台芸術」の理想、現状、べき論、といったものが分かってくるような気がしないではないが―――。

正直言って、昔から著者がいわんとするような「舞台芸術」っぽいものに大して、観ていてこちらが気恥ずかしくなってしまうたちなもので、本書の内容も、それこそ70年代、新宿の安酒場で「状況劇場」の若手たちが口角泡を飛ばして激論していた「芸術論」を聞いているようで、「わかるような気もするけれど、何を一人で興奮しているのだろう」といった白けた気分になってしまう。

ピナバウシェの舞踏以外の「舞台芸術」に興味がないというよりは、むしろ毛嫌いしている自分にとって熱く熱く舞台芸術を語る著者をまるまる理解しようというのは、所詮無理だったということかもしれない。