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まなざしの誕生 下條信輔 新曜社
赤ちゃんの認知機能は生まれた時に既に備わっているのだろうか、それとも生まれてからの環境の中で獲得していくものだろうか。
お母さんのおっぱいを吸う能力は生物的な本能といってもよい能力だとは思うものの、お母さんに抱かれているときに見せるほっとした笑顔は学習によって得られた能力なのだろうか。赤ちゃんは実に多くの謎につつまれているといってよいが、本書はそんな不思議な赤ちゃんの能力についての多くの知見が書かれており赤ちゃんがますます好きになる一冊と言ってよい。
本書によれば、赤ちゃんには生まれる前から感覚器官、運動器官、消化器官が備わっているが、それらの諸機関の連携は取れていないという。出産後、脳がそれらの器官の働きの連携をとるようになっていくのだが、脳のこの過程こそが、赤ちゃんが幼児としてそれぞれの自己を確立していく過程であるという。
我々が皆通ってきた道である赤ちゃんの自己の確立過程を発達心理学の立場から概説した本書は、我々人間がいかに神秘的な生命科学のメカニズムの中で生きているかをおしえてくれる興味尽きない一冊といえる。
原著は既に半世紀以上前に書かれた一冊だが未だに多くの支持を得ている名著といってよいだろう。
（88年㋃発行）