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山の郵便配達 彭 見明 集英社
どの国の小説にもそれぞれの国特有の薫りというか雰囲気がある。
ロシア文学、フランス文学、アメリカ文学、等といえばそれぞれに特徴的な雰囲気を思い出すが、中国文学というか中国近代小説にもやはり特徴的な香りがあると思う。
それは魯迅や老舎などの小説が持つ庶民の生活からにじみ出る人生の賛歌であり、哀歌であり何しろストーリーの大きな展開よりも雰囲気で読ませる、山水画的な小説世界といってよいだろう。等身大に描かれた人々が醸し出す作品の雰囲気はやはり東洋的なものであり、日本文学の持つ雰囲気と共通したものがある。
それはいずれかがいずれかの真似をしたといったものではなくやはり東洋人の持つ文化的共通点に基づくものなのだろう。
彭 見明の短編作品からなる本書もそういった中国小説らしい特徴をもつ秀作といってよいだろう。
表題作「山の郵便配達」は長年勤めた郵便配達の仕事からの引退を迫られた年老いた配達夫の最後の一日を描いた作品だ。彼がその仕事を引き継ぐのは彼の一人息子だ。昨日までこの老配達夫とともに山道をたどり川を渡って歩いた老犬の戸惑い、自分の辿った人生の苦楽と同じ道をこれから辿ることになるであろう息子への老人の感慨といったものが、描かれそれが果てしない山麓の風景描写と相まってなんとも美しい一編となっている。
この作品は映画化もされているようだが、是非映画も見てみたいと思う。
「南を避ける」「過ぎし日は語らず」「振り返って見れば」の三作は、文化大革命という大きな流れの中で起きる様々な混乱の中で翻弄される庶民の哀歌を題材にしているが、これも又、中国近代小説には欠かせないテーマといえるだろう。
今現在の中国社会も共産党一党独裁という強力な権力機構の中で13億の人々が翻弄されているという意味で、文化大革命に託して描かれる中国社会は、実は今現在の中国の庶民の心情を描写している超現代小説なのかもしれないとも思った。
（07年6月発行）