宇宙が始まる前には何があったのか？ L・クラウス 文芸春秋
宇宙は135億年前のビッグバンによって始まった。これは、証明する理論は完璧だし、それを証明する宇宙背景放射などの事象は豊富にある。ビッグバン理論はそういう意味では今や「常識」になっているといってもよいかもしれない。
しかし、「それではビッグバンより以前の宇宙はどうなっていたのか？」という疑問をもつ人が多いのはこれまた「原因があるから結果がある」という因果律が当然の「常識」としてあるからだろう。
「この宇宙は無から生まれた」という否定しがたい理論と、「あらゆる事象には原因がある」という因果律常識の折り合いをつけてくれ！と思う人にとって本書は大いに参考になるのではないだろうか。
「ビッグバンによって時間と空間が生まれた」すなわち「ビッグバン以前には時間も空間もなかった」という宇宙論は突き詰めていえば「無から有が生まれた」ということになるのではないか？という問いかけに対して本書で著者が主張するのは、「真空のエネルギー」の理論である。
「真空のエネルギー」とは量子力学による最低エネルギー状態のことだが、「真空」は何も無い のではなく最もエネルギーの低い状態のことであり、エネルギーが詰まっていてもあまりにも微量のエネルギー状態であるがために観測できないという。しかしその存在は、量子的な揺らぎの中で粒子の対が生まれて消滅することからも存在することは確定しているエネルギーのことだ。
すなわち、「この宇宙は無から生まれた」という場合の「無」は、「なにもない」とは異なるという訳だが―――なんだか蒟蒻問答のような趣もないではないが―――ある意味では哲学問答のようでもありなんともいえず面白い。
宇宙の誕生について知ることも面白いが本書のいう宇宙の終焉の物語の方がもっと面白い。西暦2兆年の宇宙はどうなっているか－－－興味のある方には本書のストーリーは大いに楽しめることだろう。
（13年11月発行）