近代ヤクザ肯定論 宮崎学 ちくま文庫
今は暴力団あるいは反社会的勢力といわれ、存在しない方がよいに決まっている！と思われているヤクザだが、たしかに昔も「社会のダニ」などといわれていた反社会的側面もあったものの、山口組を例にとれば、戦前から戦後にかけて彼等は、港湾荷役などの過酷な労働を担う荒くれ者たちの非正規イレギュラー労働の仕切り役、まとめ役として、あるいは戦後の一時期、第三国人による暴力に対抗できない公安、警察に代わり社会の秩序維持の捨石となるなどして一定程度の社会的役割をはたしてきた時期がある。（村の祭りなどにおいてはヤクザがその仕切り役として必要不可欠とされていたことも多かったが、その残滓は現代でもあることは事実だ）
自身がヤクザ組織の子息として育った著者による「近代ヤクザ」の社会学的歴史的考察は、山口組を主役として日本の近代史をうまくからませて実に貴重な資料的価値をもっている。
明治以降の日本の資本主義の勃興期、前近代社会と近代社会の橋渡し役としてヤクザは機能し、地域社会の中で正当性を認知された社会的権力として基盤を築いてきたものの、戦後の高度成長と社会の激変の中で徐々にその存在場所を失ってきた---時代とともに歩んだヤクザ近代史は壮大な歴史物語ともいえるものだ。
「ヤクザもある意味では社会の潤滑油として存在意義はあった」などということを堂々と言える時代ではないが、たしかに本書で述べられているように、過去においては必要とされていた時代もあったし、今も全否定できないという現実もあるように思うだけに、「肯定論」と名打ってのこの労作を世に問うた著者の思いには、共感するところもある。（そんなことを言ったら袋叩きに会いそうだが）
（10年10月発行）