統計学が最強の学問である 西内啓 ダイヤモンド社
統計といえば、最近は「ビッグデータ」流行りである。膨大なデータを何しろ集め,それを分析することで、魔法のような成果が得られる---東日本大震災発生のメカニズム、あるいは災害復興計画作成の為のデータ等々、たしかにビッグデータによって成果が得られた（ように見える）事柄は多い。
一方、なにもビッグデータなんか集める必要はないではないか、と思うのは、選挙結果予測などでは、ほんの数百人の無作為抽出された人々の回答が、実際の投票結果をかなり正確に表していた---という例を我々はよく目にするからだ。
これは、大鍋一杯のシチューの味をみるために、その鍋からスプーン一杯のほんの少しの味を確かめれば済むのと同じ、「サンプリング」の効果によるものだ。
正しいサンプリングを行えば、なにも巨費をかけてビッグデータを集める必要がない---ということを本書の前半部分では強調している。
もちろん、データが多ければそれだけ誤差は少なくなるはず、というのは正しいが、著者は、多くの企業などが陥っている統計学リテラシー不足からくる「データは多ければ多いほど正確な統計結果が得られる」という迷信（？）を指摘し、「あと1%の精度を高めることに、数千万円の費用をかけるべきか？」と問う。味見という目的の為なら、スプーン一すくいで十分なのに、大皿一杯のシチューを飲み干してしまうようなものだ、という訳だ。
タイトルがかなりキャッチ―な所為もあって、一見「統計学入門書」といった感じで手にとった本書だが、一般にはあまり馴染とか、親しみがない「統計」とは、そもそもどういうものであり、歴史的にはどのようなことから発達し、どのように役立てられてきたのかといった話がメインで、「ランダム化」「カイ二乗分析」「ベイズ検定」といった統計分析用語の解説とそのさわり等を紹介しているという点では確かに「入門書」ともいえるが、どちらかといえば「統計学びいき」による、「内輪ボメ」的な主観が多いような気がしないではない。
（13年1月発行）