虹の解体 リチャード・ドーキンス 早川書房
ネオダーウィニストの代表ともいえるドーキンスだが、デビュー作「利己的な遺伝子」以来、その極めて挑戦的な反宗教、プロ科学の主張は、本家ダーウィンが世界に与えた衝撃に匹敵するほどの影響を与えている。
本書のタイトル「虹の解体」は、ニュートンが解明した虹の分光の仕組みに対して、詩人キーツが「虹の持つ詩情を破壊した」との苦言を呈したことに対するドーキンス流の反論という趣旨から選ばれたものだ。
ドーキンスは、ニュートンが虹の分光の仕組みを解いたそのことが、実は科学のもつ無限の神秘性、Sense of Wonderという極めて詩的な世界への扉を開いたことになるのだという。
神がわずか七日間で天地を想像したという聖書が語る幼児の詩にも劣るような言説にくらべ、近代科学がその扉を開いた、生物学・進化論や、量子論、宇宙論、ゲノム問題、脳科学、認知心理学、数学、等々の広い分野において、科学が常に、いかに詩的魅力を引き出してきたかを力説するドーキンスの歯切れはいつもながら小気味のよいものだ。
本書の発行から既に15年が経過、本書に書かれた科学的知見の多くが既に古くなっているところもあるが、ドーキンスが本書で批判してきた非科学、宗教といった側の頑迷さは今も相変わらずである。
天地創造を信じ、進化論に反対する無知なキリスト教徒、WTCへの攻撃によって「神の国に行ける」と信じたイスラム原理主義者たちが、この15年で以前より減ったなどということはなく、むしろ益々、そういった非科学的な人種が世界で増殖している近年、ドーキンスの孤軍奮闘も、こういった連中を変えることはできなかったという挫折感に苛まれるが、これからも博識な理論家ドーキンスの鋭い舌鋒に大いに期待していきたいと思う。
（01年3月発行）