竹林はるか遠く ヨーコ・カワシマ・ワトキンズ ハート出版
作家新田次郎の妻であり、数学者藤原正彦の母である藤原ていの「流れる星は生きている」は、満州からの引き揚げの苦難の日々を描いたものであり、そのサバイバルストーリーは、多くを語られることのなかった敗者の側の市民の記録として、我々日本人が記憶し続けなければいけない記録であったが、本書もそんな敗者の記録、しかも当時11歳の少女であった著者による苛烈な経験談として、広く読まれるべきものだと思う。
太平洋戦争の末期、著者は11歳、朝鮮半島から家族とともに逃げ出した。回りは全て敵といってよい状況の中、少女たち引揚者に対する朝鮮人やロシア軍によるあまりにも残酷な仕打ちの体験談はは、戦後、日本人は全員が戦争の加害者であり、朝鮮人は全員被害者だとする一方的な日本非難の作られたストーリーからは徹底的に排除されたものだ。しかも、そういった日本非難の中では、日本人の側も「戦争に負けた以上は、それを訴えても仕方がない」と諦めてきたストーリーなのだ。
そんな日本の姿勢が、ありもしない中韓による性奴隷の話になり、南京での50万人虐殺の話になり、あたかも事実であったかのように世界に喧伝される結果となってしまったのだが－－－。
もっとも、逆に朝鮮人や中国人が全て日本人引揚者に対して酷い仕打ちをしたという訳でもない。「流れる星は生きている」の中にも、日本人民間人引揚者に対して手を差し伸べてくれる朝鮮人がいる一方で、日本人の中にはいわゆる「悪い日本人」がいたこともかかれていたが、本書でも、そういった両種の朝鮮人がいたことは公平にかかれており、それだからこそ、本書はアメリカの多くの学校で、教材として採用された理由だろう。
それにもかかわらず、本書は在米韓国人などによって教育現場から追放する運動にさらされているという事実は、なんというべきなのだろうか。
従軍慰安婦問題など事実と異なる日本叩きに熱心な一方では、自分たちが日本人民間人に対してどれほど残虐な行為をしたかは覆い隠そうとする人達、隣国の人達のこういった一方的なバッシングに、日本人はいつまでも黙っているべきなのだろうか。
そういったことは別にして、我々日本人の先輩たちの苦難の経験を少しでも知っておくために、本書は日本でも教材として取り上げてよいのではないかとさえ思う。
（13年7月発行）