脳の神話が崩れるとき マリオ・ボーリガード 角川書店
デカルトは「神の存在証明」によって神さえも人間の理性で解明できると考えた。このデカルトやパスカル等による科学万能思想が後に唯物論を生み、現代においても科学に対する強い信頼（ある意味では信仰といえるかもしれない）の基礎になっているといっても過言ではない。
しかし、この「結局すべての謎は科学によって解明できるだろう」という考え方は、宗教の側から、あるいは一部の科学者にとっては到底許容できない考え方であり、様々な反証がなされてきた。
物理学の分野においてもニュートン力学、一般相対性理論あたりまではその万能を信じられていた科学だが、量子力学というなんとも摩訶不思議な理論が出てきて、しかもその理論が、現実世界の事象と一致するに至って、「やっぱり唯物論的な科学万能論は必ずしも正しくないのではないか」という懐疑が生まれてきているのは事実だ。
本書は、古くから人々の抱く疑問、「心、あるいは精神、は一体どこにあるのか」という疑問に対する反二元論的な考察を取り上げたものだ。
デカルト的思考からいえば、人の心はすべて脳の中で起きる電気パルスの作用であり、人の脳は肉でできたコンピューターだということになるが、はたしてそんなことがいえるのか？ こんな例もあるぞ、あんな例もあるぞ、と中々面白い。
プラシーボ効果だとか、催眠術による無痛手術、CIAまでもが採用していた超能力スパイや、臨死体験等々、確かに、「もし、脳の働きが、二元論的なもので組み立てられているとしたら、こういうことはどうやって説明できるのだ！」と迫れるような事実が、過去の実験結果などを基に語られていくと、確かに科学万能主義といっても、まだまだ、解明できていないことが多すぎて余り信用できないのかもしれない、と思わないではない。
「科学の発展と共に、人々はいかに自分たちが知らないことが膨大であり、知っていることが少ない事を知る」ともいわれる通りで、デカルトの見切りは、やはり早すぎた！ということなのかもしれない。
前半部分では、こういった脳と心の問題における未解明の謎を上げて、科学万能論に疑問を投げかけた著者だが、終章近くになると、量子論を例に挙げて、超常現象や、宇宙意思（ある意味では神の存在のようなことをいいたかったのだろう）を上げて、唐突に著者独自のオカルト（？）理論こそが真実だ！と叫び始める。
最後の最後で、なんだ今まで付き合ってきた本書は、結局凡百のトンデモ科学の話だったのか、と感じてしまうがっかり度は、かなり高い一冊である。
（14年1月発行）