日本仏教入門 末木文美士 角川選書
日本仏教の源がインドに生まれたブッダの思想にあること、そしてそのインド生まれの仏教が、主に大乗と言われる流れに乗り中国を経て日本に入り、その後、様々な流れの仏教を取り入れる形で、徐々に日本的な仏教思想を形成、更には主に鎌倉期において、法然や、親鸞や道元、日蓮といった日本仏教独特の（鎌倉新仏教といわれる）宗派（思想）を生み出し、又、そういった仏教思想が神道や儒教、道教といった他の思想との混合の中で、遂には今日あるように、まさに日本オリジナルの仏教思想となったという事実を、著者は改めて強調する。
仏教をブッダの教えというオリジナルを基点に考えれば、戒律もないに等しい上に、修行も必要ない、などという他力本願思想まである日本の仏教は、ブッダやその弟子たちに言わせれば「こんなの仏教ではない！」ということになるだろうが---。
著者は当代随一の仏教研究者といわれているようだが、確かに宗派側にたった従来の日本の仏教研究者と違って、仏教思想、しかも日本における仏教思想を、一種の歴史的産物としての「哲学」「文化遺産」として捉え研究する、という視座は中々ユニークなものであり、仏教を宗教として理解したいという訳ではないが、なにやらそこに潜んでいそうな哲学的意味を知りたい、という読者にとっては、実に興味深い一冊と言えよう。
空海と最澄、明恵と法然の仏教の違い、さらには一見、向いている方向が全くちがうように思われている、禅と浄土思想の違いと、その同一性、といったテーマについての著者の論考は、中々、鋭くこれもまた興味深い。
タイトルに「入門」とあるが、入門レベルをはるかに超えている部分もあるが、最初から最後まで展開される論は、なんとも刺激的である。
（14年3月発行）