環境の歴史 R・ドール/F・ワルテール みすず書房
「自然保護」という言葉の中には、人間と自然を相対する物として捉えてしまう人類の側の傲慢さがあるようにも思う。その一方、「大自然の驚異」などという言葉の中にも、自然に対する人類の無力さを極端に誇張した見方があるようにも思う。
しかし、例えば山の中にある動物たちが移動の際に作った「けもの道」が、自然の一部であるように、あるいは人間が作った「里山の環境」が、原始の自然環境とは全く異質な「自然」であるように、植物、動物、そして動物の一種である人類がかかわって作られてきた環境こそが、総合的な意味の「大自然」だと考えるべきなのではないだろう。
本書は、副題に「ヨーロッパ、原初から現代まで」とあるように、新石器時代以降、ヨーロッパの自然環境が、人類によってどのように作られてきたか、又、人類の歴史、文明が、逆に自然環境によってどのように変えられて来たかを語った大作である。
人類対自然という観点からだけ物を見れば、70億にも達して尚異常に増殖し続ける人類が、自然を破壊し尽くしてしまうという破滅的なストーリーは避けられないけれど、本当にそうやって人類が地球を破滅状況に至らしめるとしても、それこそが人類という生物を含めた「地球の自然の姿」なのだという考え方も成り立ちうる訳だ――。
人類史という時間軸を基準に、地球環境の歴史（人類を含めた地球環境史）を叙述するという斬新な試みである本書の意図には大いに啓発された。
但し、本書は致命的な欠陥を持つ。それは、翻訳のレベルがめちゃくちゃ低いという点だ。英語をそのまま直訳したとしか思えない悪文の連続に、辟易するところが多かった。ただ、内容が面白かっただけに、どうにか最後まで読んだけれど、もしこんな悪文でしかも内容的につまらない題材だったとしたら、これだけのページ数の本を、を読み終えることなどとてもできなかったことだろう。
（07年1月発行）