みずうみ シュトルム 岩波文庫
ドイツ文学といえば、小学校の高学年の頃読んだヘッセの「車輪の下」だったが、思春期にさしかかろうとする頃に読んだ作品としては大変な衝撃を受けたものだった。すなわち、これからの人生とは、今まで自分が想像していたようなものとは大分違う、中々、難しいものであり、日々夢に描いているようにバラ色のものではないかもしれないということを知ったといってよい。
その同じころ読んだのが、このシュトルムの短編「みずうみ」だったが、この作品によって自分の恋愛観は、ある意味作られたといってもよいかもしれないというほどの影響を受けた一冊だ。
幼い少年と少女は、いつも一緒だった。二人は野に遊び、常に語らい、いつまでも一緒にいると固く信じあっていた。幼き二人の思い出の日々を語る前半部分は、挿入された詩の美しさもあってなんとも幻想的でさえある。
やがて少年は進学の為に故郷を出て町の寄宿所に行くが、それでも少年は二人の気持ちは全く変わらないと思っていた－－－。
その内に、少年は故郷に残った彼女が彼の親友と婚約したことを知る。青年となった彼は、その親友と彼女の住む、湖のほとりを訪ね、ひと時を過ごすことになる。少女は幼い時の快活さから一変し、もの静かな成長した若妻となっていた。その時青年が湖で見たのは、幼い二人が見た自然と何一つ変わらない湖の自然だった―――。
そしてそれからまた時が経ち、かつての青年は老人となり、再び一人その湖に佇む。湖の自然は何一つ変わっていない―――老学者となったかつての少年が、追憶の中に見た物は、月の光に浮び上る少女エリーザベトの面影だ―――。
人の一生は短く、そして人の運命は実に移ろいやすいものなのだ―――ということなどの諸々を、この小説によって衝撃的に知ってしまったことが、その後の自分の人生観、恋愛観に与えた影響は実に多かったということに、50数年ぶりにこの小説を読んで気づかされた。
（53年2月発行）