村上海賊の娘（上下） 和田竜 新潮社
石山本願寺を兵糧攻めにする織田信長軍を海上から突破したのが村上海賊を主力とする毛利軍であり、この木津川の戦いにおいて完膚なきまでに大敗した信長は、それから2年後、伊勢の海賊九鬼喜隆率いる鉄張船を使って第２次木津川合戦に勝利、瀬戸内の制海権を完全に手に入れるとともに天下制覇へ大きく乗り出すことになるのだが、この小説は第一次木津川合戦を中心に上下２巻、1000頁に亘る瀬戸内海賊の戦いを描いたものだ。
その意味では、史実をもとに展開するいわゆる歴史時代小説の王道を行っている小説ではあるが、木津川合戦が例えば関ヶ原などほどには知られていない合戦であり、村上海賊もあまりポピュラーな存在ではないだけに、なにも1000頁に亘って展開するほどの物語ではないのではないかという気がしないではない。
歴史上それまで余り知られていない人物、例えば原田甲斐を主人公にした司馬遼太郎の「樅の木は残った」などは、物語展開が中々複雑で主人公たちの屈折した心理劇という点でも読みごたえがあったが、本書では、物語展開は極めて淡泊であり、劇画の原作と言ってもよいほどの活劇描写で読ませるという面が強く、読んでいる途中でどうしても「冗長だなぁ〜」と感じないではない。
主人公の一人である村上海賊の娘、景、やもう一人のスーパー豪傑、真鍋海賊の頭領、真鍋七五三兵衛（しめのひょうえ）の、ロボコップを思わせる不死身ともいえる大活躍は、劇画になれた読者なら楽しめるのだろうが、どうも本格的な「歴史時代小説」を期待してよみはじめた自分にとっては、読み続けるのには多少の苦痛を伴わないではなかった。
この時代、敵味方に分かれて戦う者同士、その戦いの本意は、あくまでも自分の家の存続であって、そういう意味では戦いも、裏切りも、要は打算が基であったが、景や一向宗に付き従った一般信徒には、信仰なり正義といった戦う意味があったのだということを著者は強調したかったのかもしれないが、それはあまり成功していないようにも思う。
読了に要した時間と読後感の満足度がどうも釣り合わないようにも思うだけに、他の人に勧めるかといえば、NOと言わざるを得ない、というのが正直な感想だ。
（13年10月発行）