生命の起源 ポール・デイヴィス 明石書店
宇宙の誕生、宇宙の起源という謎の解明は着々と進んでいるという実感がある。しかしもう一つの謎、そして最大の謎、生命の起源となるとどうだろう。
生命科学がこの100年余りで解明した生命の仕組みは、これまた宇宙科学の進歩に匹敵するものがあるのは確かだが、それでは、一体、どういう仕組みで生命無きところから生命が生まれたのか、となるといまだに、全く解明が進んでいないし、これからも、未来のいつかの時点で解明できるようになる！という確信さえもてないような状況といってよいのではないだろうか。
本書の原著は1999年というから、生命科学の進歩の速度から考えると、内容はいささか古い部分もないではないが、宇宙開闢以来140億年という時間をかければ、超高温度の微細な一点からはじまったといわれるこの宇宙に、生命が少なくとも一回は誕生するだけの機会があった、という奇蹟中の奇蹟のような事実の仕組みの解明に、あらゆる科学的、哲学的知見を総動員して挑戦しようとする著者の情熱を感じる。
本書が掲げる生命に関する疑問は、生命誕生のメカニズムに留まらない。（むしろ、その点は、あまり深入りしていない）この宇宙に生命は我々だけたった一つなのか、いやそうではなく、ごくありふれたものとして存在するのか、といった問題にこそ焦点が置かれている。
特に著者がしばしば引用するのが、初期火星において生命が誕生していた（いまも、しているかもしれない）可能性、火星の生命が宇宙からの隕石衝突などによる破片の飛散などによって宇宙空間を旅して地球に到達した可能性（逆に、地球生命が隕石衝突によって火星その他の宇宙へ飛んでいった可能性）についてであり、多くの紙数を割いている。
専門が物理学者である著者だけあって、ここにあげられるそういった生命誕生の可能性に関する物理学的論拠は、それなりにしっかりしている。しかし、ほとんどのケースにおいて先ず言及されるのが、実証された事実ではなく「仮説」に基づくものばかりである所為もあって、全体的に見てなんとなく「トンデモ科学」的ととれなくもない。
宇宙誕生と違って、生命誕生はやはり、未来永劫人類にとっては解けない謎で終わるのではないかという気がしないではない。
（14年5月発行）