オオカミが日本を救う！ 丸山直樹編著 白水社
かつての日本ではオオカミは神として祀ることもあったが、明治以降、日本にはなじみのなかった酪農が西洋から取り入れられたこと、西洋のオオカミ＝害獣というイメージの浸透、などによって、日本各地の山野に棲息していたオオカミは短期間で駆逐、絶滅させられてしまった。
更には、動物愛護や、自然保護の掛け声の下、有害鳥獣の駆除にも規制がかけられ、更にはハンターの老齢化・減少や山林荒廃、耕作放棄地の拡大なども重なってサル、イノシシ、クマ、シカなどによる農業被害がひろがっている。
特にシカの個体数の猛烈な伸びは、全国規模で広がっており、知床などでは増えすぎたシカが樹木の若芽や若木ばかりではなく、成木の樹皮などまでを猛烈な勢いでを食べるため樹木が倒れ、樹木が無くなった土地は保水力をうしなって土砂が流失、何万年もかけて育った森が失われていることが大きな問題となっている。
著者は、こういった獣害、特にシカによる破壊的な自然破壊を止めるには、かつての日本の山野がもっていた自然調節機能をいま一度取り戻すことが必要であり、その為の決め手は、かつての日本の山野における頂点捕食者であったオオカミの再導入であると強調する。
かつて、ハブの天敵として導入したマングースがハブの撃退には全く役にたたないばかりか、沖縄や西表島の貴重な固有種を食べてしまうという大失敗があったこと（どうせ、マングース同様にオオカミ導入は大失敗に終わるだろうという、いわれない批判）、あるいは「赤ずきんちゃん症候群」（実際は極めて臆病であるために人を襲うことはまずないといってよいオオカミなのに、赤ずきんちゃんのおとぎ話のイメージから、オオカミ＝人を襲う、という悪名を着せて、ひたすら排除しようとする）などの理由を挙げる人々が多く、オオカミ再導入による自然バランスの復活を掲げる著者たちの運動には抵抗が多い。
本書では、著者はアメリカのイエローストーンをはじめとする各地、あるいは欧州でのオオカミ再導入によって自然バランスの回復、森林の復元が実績として上がっていることなどの豊富な実績、資料などを丁寧に説明し、日本におけるオオカミ再導入を実に熱く語っている。
絶滅した二ホンオオカミは、固有種ではなく、シベリアなどに棲息しているタイリクオオカミと同種であることが最近のDNA検査などで明らかになっており、そのことなどから考えても、かつて何万年もの間、日本列島の鳥獣の頂点捕食者であったオオカミ（移入されるタイリクオオカミ）は、日本に棲んだこともなかったマングースを移入して起きた大失敗とは全く違い、「失われた自然調節機能の復活」に過ぎないのだという著者の説は、非常に説得力がある。
オオカミの再導入によって、シカ、イノシシ、サルなどの獣害が大幅に減らせるし、それによって日本の7割近くを占める山林の植生も大きく回復するであろうという著者の論は、実に説得力があるし、なんだか夢を感じるのだが---。
ただ著者達の情熱にもかかわらず、日本の官僚システムや、間違った自然保護思想の蔓延によってオオカミ再導入の実現は難しいだろうなぁ〜とおもわないではない。
（14年2月発行）