築土構木の思想 藤井聡・他 晶文社
公共事業といえば何から何まで悪のようにいう風潮が一方にあるが、もちろん、その全く逆、公共事業じゃんじゃんやるべしという主張も様々な方面からある。
今回の震災などの後では、公共事業による大規模な治水対策や安全対策の必要性が公共事業否定論を吹き飛ばし、なにしろものすごい津波堤防を作れだの、何を作るのか分からないけれど何しろ農地回復の為に、十数メートルの盛り土をせよといった気違いじみた公共事業万歳の声がつよくなるのは致し方あるまい。
効率のよい費用の少ない安全対策（たとえば高台への移転、水没農地の放棄といった）の必要性などということはさっぱり検討されないのはなぜなのだろうか。
本書は、そういう震災後の風潮にも乗ったのだろうか、一時期流行った公共事業悪玉論の正反対、公共事業じゃんじゃんヤレ派による一冊である。
昔に比べれば伊勢湾台風級の大災害による被害が少なくなったことや、新幹線網の発達による社会経済の活性化などをみれば、公共土木工事はいい事ずくめである、という主張の核になっているのは、公共事業が何しろ「命」を守ってきたではないかという主張だ。
「命」を守る方策が唯一大規模公共事業という訳ではないと思うがなにしろ、「命」を盾にしたこの公共事業じゃんじゃん説の鼻息は荒い。
確かに、東北大震災の際には、道路網が寸断されて長期間孤立した村もあった。命を守るためなら、そういうことが二度と起きないように道路網や鉄道網をもっともっと作るべきだ―――という訳だが－－－。
その費用は、一体誰がどうやって出すのか―――と考えると―――やはり「命」を人質にとっての公共事業礼賛論には抵抗を覚える。
本書の主張は、いささか極論過ぎるように思えるが――――。
（14年7月発行）