第一次世界大戦 木村靖二 筑摩書房
サラエボでオーストリアの皇太子が暗殺された時、この事件をきっかけとする戦が、一説では戦闘員および民間人3700万人の犠牲者を出す人類史上最大の戦争の一つになることを予想した人はおそらくいなかったのではないだろうか。
今から丁度、100年前に起きたこの第一次大戦を新書一冊で、手際よくまとめた本書は、人類が今も尚、ひょっとしたきっかけで相互殺戮の愚行に突き進む危険性を孕んだ生物であることを教えてくれる。
第一次大戦には日本も参戦してはいるが、主戦場が遠い欧州でであったこともあるので、我々がこの対戦を知るのは、主にヘミングウェイの「武器よさらば」やレマルクの「西部戦線異状なし」などの文学作品を通してといった情緒的なものになってしまいがちだが、この100年間に積み上げられた研究資料に基づいて淡々と描かれるこの戦争の余りにも多い各戦闘の犠牲者の数、そしてほんの一握りの戦争指導者たちの、救いようのないほどの判断ミスのつみ重ねが、人という生物がまさにハーメルンのネズミのような集団自殺を好む生き物なのではないかということを教えてくれる。
又、その一方では、こういった大きな犠牲をともなう大戦争という試練を減ることによって人類社会が、常に大きく変容しその中から新しい人類の未来が開かれてきたという事実もある。
本書にも第一次大戦によって様々な技術革新が行われたこと、前近代的な帝国体制から、国民国家体制が確立されていったこと、女性の社会進出、福祉国家制度の萌芽といったものが出てきたことなどが述べられている。
人類にとっての宿痾ともいうべき戦争について色々と考えさせられる一冊である。
（14年7月発行）