哀しすぎるぞ、ロッパ 山本一生 講談社
古川ロッパが没したのは昭和36年、戦前、昭和10年代には喜劇王としてエノケンをも凌駕する人気を誇ったといわれるものの、戦後生まれのタカさんにとっては、戦後直ぐに人気凋落、傲慢だとか、演技がなげやりだといった悪評がかすかに記憶にあるばかりで余りなじみのない役者だったといってよい。
そんなロッパだが、今、彼が再び注目を浴びるのは、「日記魔」ともいわれるほどに膨大に書き残した原稿用紙3万枚にも相当する日記が、激動の昭和の時代を、一個人としてあるいは当時の演劇界の第一線で活躍した役者として、実に詳細にしかも赤裸々に書き残した、稀有な資料となっているからだ。
本書は、そんなロッパの日記を基に、彼の生い立ちや、昭和初期演劇界の様子や、菊池寛、小林一三や菊田一夫、谷崎潤一郎やサトーはチローといった人々との愛憎や確執などが、実に興味深い物語のように展開して面白い。
才能に恵まれたお坊ちゃん俳優であっただけに、劇団員に対する横暴な振る舞い、あるいはライバルに対する露骨な嫉妬心といったことが災いし、病魔に侵され、借金漬けとなった戦後は、うらぶれた立場に置かれながらも尚、自尊心だけは高かったロッパは、必ずしも同情を引くような立場にはなかったが、この日記を通して感じるのは、そういった浮き沈みの激しい一生を送ったロッパが、哀しくもある一方で、余りにもドラマチックな生き方を貫いたのではないかという思いだ。
（14年7月発行）