生物に学ぶイノベーション 赤池学 NHK出版
植物の生育にとって不可欠な窒素肥料は、20世紀初めにドイツのハーバーとボッシュによって人工合成が可能となった。このことが、農業生産を飛躍的に増やし、結果的に今現在、70億にも及ぶ世界人口を賄えるほどの食糧生産を可能にしているともいえる。
その意味では、ハーバーとボッシュによるアンモニアの化学合成法は、人類にとって最大の発明といってもよい。
しかし、窒素肥料工場は実に大がかりなものであり、小さいものでも東京ドーム数個分の敷地に様々な工場をもち莫大なエネルギーの投入をおこなってはじめて、貴重な窒素肥料が得られるのだ。
しかし、マメ科の植物の根に宿る根粒菌は、実に小さな生物だが大気や土中の窒素固定を数億年前からいとも簡単に行っている。しかもその窒素同定に要するエネルギーは極めて小さい。
そんな根粒菌の例を挙げるまでもなく、今、我々人類が大がかりで複雑な装置をつかって獲得している素材や、便利な機能といったものは、実は、植物や昆虫など様々な生命体がずっと以前からもっていたものであるという場合が実に多い。
そうであるならば、我々は、今改めて、生物の持つ様々な形態や機能、あるいは生物同士の競合や共生の仕組みといったものから学ぶべきではないかというのが、本書の主張だ。
実に多くの我々が学ぶべき生物の機能や仕組みが紹介されている。
ハスの葉やバラの花びらの持つ超撥水性を参考にした服地、イノコヅチなどの接着力を参考にした接着テープなど既に実用化されているものも多いが、その何十倍、何百倍もの驚くべき機能があるという著者の主張には大いにうなずくべきところがある。
生物はこの何億年の間、生き残るために様々な進化を遂げてきたし、生き残るために様々な戦略を駆使し、それを研ぎ澄ましてきている。それは、例えば、我々がビジネスの中でやってきていることとも共通点があるのだ、という主張もおおいに納得がいった。
（14年7月発行）