犬たちの明治維新 仁科邦男 集英社
幕末から明治維新、そして文明開化していく明治の日本―――様々な角度からえがかれてきた興味ある時代であるが、この歴史や文化を「犬」という視点であらためて再見するという実に面白い発想から書かれた一冊である。
黒船で来航したペリーに、将軍から3匹の狆が送られた。さてその3匹はどうなったか。ペリーの未亡人が飼っていた日本犬とその狆は同一の犬だったのか―――。
幕末期日本を訪れた外国人たちは、刀を振り回しかねない酔っ払いの侍よりも嫌ったのが街中に溢れ、外国人とみればしつこく吠えかかる犬であったこと―――西郷隆盛の犬好き、徳富蘆花の犬嫌い、あるいは明治天皇とその飼い犬の話等々、いささか取りとめのない話題が続くが、いずれも、歴史薀蓄物としてはむちゃくちゃ面白いし、「トレビア」として知っておいて損はないようなものばかりである。
著者は記者出身とのことでさすがにライターとしての着眼点がよいと感心した。
現役時代から、様々な資料を渉猟しこういった「犬」に関する資料や風俗史資料などを収集していたようだが、江戸時代、明治初期における人々と犬の関係などを知ることが、その当時の市井の人々の暮らしぶりを鮮やかに浮かび上がらせるという効果をもっているという着眼に改めて感心した。
歴史、文化史的な価値のある一冊といってよいだろう。
犬はポチ、猫はタマという名前の由来、いつごろからこういう名前がポピュラーになったのか―――等のトレビアも実に面白く読んだ。
（14年7月発行）